セイプ ライオンツ ノ シュー ミンチェ テス ハァー
(以下陳さんの訳) 9ヶ月にわたって、毎週オレが勝手なことをしゃべりつづけてきたこのコーナーも、 とりあえず今回をもって最許回とさせていただきます。 読者のみなさんには本当にたくさんの応援の声をいただきました。 そもそも、このコーナーは現在の球界にウンザリしているファンの皆さんを少しでも勇気付けたい、 そしてパリーグのよさを、野球のよさをもっともっと知ってもらいたい、そういう意図で書き始めたものですが、 いつしかオレこそが皆さんに勇気付けられていました。 このコーナーで私の毎週の勝手な意見に対して賛同の意見を下さった方、厳しい批判を頂いた方、 また、直接意見は頂かなかったけれども、読んでくださっていた全ての方々に、 篤く御礼を申し上げたいと思います。 オレがこのコーナーをやっていて一番嬉しかったのはね、現在の球界に対して、 「このままじゃプロ野球はつぶれるぞ!」という危機感を持っている人が非常に多いと分かったことです。 今の球界は、ほっておったらそのうち潰されてしまうんですよ。今年だけでも、いくつその兆候があったことか。 ファンの皆さんがその危機を感じ取って、ファンの立場から警鐘を鳴らしてくれているのは、オレにはとても嬉しかった。 同時にね、真剣に心配してくださるみなさんの意見を見てね、オレのいるプロ野球、パリーグは こんなにたくさんの人に愛されていたんだなあと、目頭が熱くなったことも一度や二度ではありません。 オレもね、プロ野球を、パリーグを愛する気持ちでは誰にも負けませんよ。 最近ね、オレや皆さんが思い描いている、理想のプロ野球がいつの日か日本で繰り広げられたらいいなあと空想するんです。 ――天然芝の緑が映えるグラウンド。太陽に選手の汗がキラキラと光る。 選手は子供のように、グラウンドの上を思いっきり飛び跳ねてプレーする。 サインの交換。投手が構え、そして力いっぱいボールを投げ込む。打者のバットが空を切る。力強いガッツポーズ。 塁上の駆け引き。三塁コーチのサインに、走者がうなずき、投手が振りかぶった瞬間に風のように駆け出す。 3秒間の攻防。打者は空振りして走者を助け、捕手は矢のようなボールを二塁へ送球する。滑り込む。遊撃手がタッチ。 アウトかセーフか。塁審の手が、ゆっくりと横に広がる。 外野をまっぷたつに割って、誰の目にも抜ける、やられた・・・と思われた打球を、 外野手が豹のように躍動、地面もフェンスも恐れぬスライディングキャッチ。 スタンドからは好守をたたえる大コール。選手からこぼれる白い歯。 力と力の勝負。投手が何を投げても、打者は空振りしない。真っ向勝負に、なかなか決着がつかずにいる。 固唾を飲んで見守る観客。たびたび斜め後ろにはじけ飛ぶファウルチップやファウルフライ。それをあわあわと追う初芝さん。 回は大詰め、ランナーがたまってピンチというところ。スタンドの悲鳴と歓声に送られながら、リリーフエースがマウンドに向かう。 バッターボックスは長い間不振に苦しんだかつてのスター選手。二軍暮らしが長くなり、顔は真っ黒に日焼けしている。 リリーフエースが満を持して投げ込んだボールを、かつてのスターが打ち返す。 ボールは夕闇のカクテルライトに照らされながら、大歓声のライトスタンドへ。 バッターは一塁ベース上で大きく飛び跳ねてガッツポーズ。一塁ベンチからチームメイトが飛び出す。 その奥では、監督がゆっくりと立ち上がり、コーチとゆっくりと握手をする。 顔をくしゃくしゃにしながらベースを回ってきたバッターに、手荒な祝福。皆の目には涙。 ややあって、ゆっくりとダグアウトを出てきた監督の姿が選手達の輪に埋もれ、そしてゆっくりとその体が宙を舞う。 スタンドは、誰の顔もはちきれんばかりの笑顔、涙。この瞬間を待ちつづけたファンの、それぞれの時間が止まる。 その瞬間、ダイヤモンドは確かに本物の「ダイヤモンド」となって、キラキラと光った――。 オレは、数十年の歴史を刻んできたこのプロ野球という競技が、どれだけの人を感動させてきたか、 どれだけの人に涙を流させてきたか、よく知っています。そのすべての野球ファンの思いを背負って、オレはマウンドに立っています。 しかし、オレだけが主役なわけではない。打席の打者、構える捕手、その向こうの審判、 前後左右を埋める観客の皆さん、そして実況席のアナウンサー、解説者、カメラの向こうの全国のファンの皆さん。 すべての野球に携わる人々に、それぞれのドラマがあり、それぞれの想いがあります。 プロ野球は、皆さん一人一人の中にあるんです。 日本のプロ野球にいる、そしてかつていた全ての選手は、皆さんの声援を日々の力として マウンドに上がり、打席に立ち、守備位置についています。 メディアには、そのオレたちの一つ一つのプレイを、偏らず漏らさず、すべてファンの皆さんに伝えて欲しい。 選手たちの流した汗は、涙は、余計な装飾をつけないでもね、かならず何よりも饒舌に何かを伝えるんです。 その証拠にね、みんなが覚えているんですよ。大下さんの青バットを。長島さんの空振り三振を、 王さんのピッチャー鹿取を、宇野さんのヘディングキャッチを。秋山さんのバック転を、星野さんのスローカーブを、 金田さんのタコ踊りを、大沢さんの土下座を、野茂さんのトルネードを。 それら全てがプロ野球であり、それにまつわる皆さんの思い出そのものが、プロ野球をかたちづくっているのです。 今日はドラフト会議の日です。カズオさんはメジャーに行きます。 また新しい血がプロ野球に入り、古い人たちはグラウンドを去るわけです。 しかし、人は変わっても、選手みんなの心の中には、数十年の歴史と、その想いが脈々と受け継がれとるんですよ。 オレは、来年も、皆さんの想いを感じつつ、マウンドに上がります。 ダイエーさん、来年こそはオレたちは負けません。王者としてふさわしい姿でいてください。 近鉄さん、若手投手と野手のフルメンバーがガッチリ揃ったあなたたちと戦うのが、楽しみです。 ロッテさん、ボビーの就任で意識改革、課題だったメンタル面が克服されれば来年は本当に怖い存在になりそうです。 日本ハムさん、移転、そしてオフの大補強。札幌の街にハムが根付くか、来年熱い目で見守りたいと思います。 そしてオリックス。中村・伊原就任で変われるか。緻密な野球を覚えて古豪の復活に期待したい。 みなさんの、そしてオレの愛しつづけてきたパリーグは、来年も絶対に面白くなります。 プロ野球全体もそうです。みなさんのその心の中の熱い想いがある限り、絶対にプロ野球は滅びないんです。 そのプロ野球で、皆さんの思いを背負ってプレーできる選手であることを、オレは誇りに思います。 また、球場で会いましょう。 |